今回ご紹介する車は、1974年式 Citroën SM(シトロエン・エスエム)。“フランスの知性”と“イタリアの情熱”が出会い、生まれた奇跡のグランツーリスモです。
航空機のように流麗なフォルム、空気を切り裂くウェッジシェイプ。そしてボンネットの奥に宿るのは、マセラティ製2.9リッターV6エンジン。当時としては異例の高性能と快適性を両立した、まさに“走る芸術”と呼ぶにふさわしい存在です。


シトロエンが持つ革新技術ハイドロニューマチック・サスペンション、セルフセンタリングステアリング、エアロダイナミクスへの執念。
それらすべてが融合し、現代にしてにしても尚、未来的な美しさを放ちます。
本車両は、淡いグリーンメタリックの外装にブラウンレザーの内装という極めて上品なカラーコンビネーション。
保存状態も良く、SM本来の“フランス車の官能”を余すことなく伝えています。



ドアを開けた瞬間、目に飛び込むのは深いブラウンレザーとカーペットの落ち着いた色調。光沢を帯びたパネル、流れるようなラインのドアトリム、そして低く構えたシート。どこかクラシックでありながら、未来的な雰囲気を感じさせる独自の空間です。




ドライバーの前に広がるメーターパネルは、円形の計器を横一列に並べた独特の配置。そのデザインは、操縦席というよりも“計器室”を思わせ、ステアリング中央のダブルシェブロンがこの車の誇りを静かに主張しています。





ブラウンレザーは年月を経てもなお柔らかさを保ち、深みのある艶が魅力。後席も広く、GTカーとしての快適性をしっかりと確保しています。全体的に保存状態は良好で、補修よりも“当時の空気”を感じられる質感が残ることが印象的です。

美しいフォルムを描くリアエンドには、実用性と造形美が共存しています。ガラスハッチ一体型のリアゲートは大きく開き、荷物の出し入れがしやすいだけでなく、開いた姿までがデザインとして成立する見事な構成です。



このSMの真骨頂は「ハイドロニューマチック・サスペンション」。走行状態に応じて自動的に車高を制御し、路面からの衝撃をまるで吸い取るように処理します。
ブレーキ、ステアリング、サスペンションが一体で作動するこの独自システムこそ、シトロエンが“異端”と呼ばれながらも世界を驚かせた革新技術の象徴です。
エンジンルーム内も整然としており、各ホースやハイドロ球の状態も良好で、整備された形跡が随所に見られます。機構美そのものがデザインとして成立している点も、このクルマを特別な存在たらしめる理由のひとつです。


ボンネットの奥に秘められた「マセラティ製V6エンジン」。トライデントの刻印が誇らしげに輝くアルミ製ヘッドカバーは、イタリアン・エンジニアリングの美しさをそのままに伝えています。
排気量2.7リッターのDOHC 6気筒エンジンは、当時マセラティ・メラクにも搭載された名機。スムーズで官能的な回転フィールと、静かに伸びていく特有のトルク特性を備えています。これに組み合わされるのは3速オートマチックトランスミッション。長距離を悠々と走るためのグランツーリスモとして、理想的な選択といえます。